フクロウ 題字:書評


プルトニウムファイル

THE PLUTONIUM FILES

Eileen Welson 著 渡辺正 訳
翔泳社,267p,ISBN:4-88135-903-7,2000 (\1600)[上巻]
翔泳社,281p,ISBN:4-88135-904-5,2000 (\1600)[下巻]
この夏で一番ヤラレタ本.この本と「遺伝子万能神話をぶっとばせ」は,科学を監視する視座を得るための必読書だ.(※某所にあった文章の転載です.いや,ネタ切れとかじゃなくて,良書なので)【01 Apr. 2001

 原子爆弾を生み出したマンハッタン計画(1944年)から60年代に至るまでに,アメリカ国内やビキニ環礁で行われた核「人体」実験を,膨大な公開情報をもとに調べ上げたのが本書.
 原子爆弾・水素爆弾の性能を検討する「核実験」ではなく「核人体実験」である.恥ずかしながらこの本を読むまで,アメリカにおいてこれほどまでに大規模な人体実験が行われていることを全く知らなかった.

 実験内容は,現在から見れば非常に酷い.末期患者へプルトニウムを注射器で投与し,排泄物に残留するプルトニウムから代謝量を測定する.核実験でできたキノコ曇に戦闘機を突っ込ませ,兵士がどれだけの時間戦闘能力を保持できるかを調べる.
 予算獲得のためか,それとも功名心のためか,より「野蛮な」実験も行われている.プルトニウム実験は末期患者に対してではなく,ただ病院に来た人に投与するようになった.リンパ種を癌と決め付け100ラド以上の全身照射を行う.産婦人科に来た健康な妊婦に放射性の鉄入りジュースをビタミン剤と偽って飲ませ,養護院にいる普通の子供に放射性カルシウム入りオートミールを食べさせる.どれも事前・事後の承諾などない.つまり彼らは全く知らされずにモルモットにされた.

 モルモットにされた人の一部は死に,生き残った人達は後遺症に苦しみ,その子供たちは重い障碍をもって生まれた.

 読み進むうちにやりきれない気持ちになってくる.人体実験を行った医師の大半は,治療効果が全くなく反対に命に関わることを知りながら,患者には「治療行為」と偽って実験を進めていた.そして問題が明るみなると決まって「危険だとは知らなかった」と宣う.どうやら医師としてのプライドなど,学者としての功名心の前には簡単に消え去ってしまうものらしい.

 アメリカですらこうなのだ.自分や周りの人が,気づかないうちにモルモットにされていたら...と考えるとゾッとする.

 なぜインフォームドコンセントが,カルテの公開が必要なのか,この本を読むとよくわかる.裏切りに怒るだけではなく,二度と裏切れないようなシステムを,僕たちは作らなければならない.


読了 2001.10
硬度 ☆□□
読みやすさ ☆☆☆
読む価値 ☆☆☆
bk1での情報
上巻] [下巻

目次(上巻)

第一部 「産物」
 第一章 プルトニウムは酸の味 
 第二章 カリフォルニア大学・放射線研究所 
 第三章 シカゴ大学・冶金学研究所、一九四二年 23
 第四章 許容線量 35
 第五章 マンハッタン計画始まる 49
 第六章 顔を見せたプルトニウム 61
 第七章 人体実験の立案 72
 第八章 エブ・ゲイド 80
 第九章 ではお次――アーサーとアルバート 88
 第一〇章 トリニティ実験 99
 第十一章 小さな太陽 109
 第十二章 仕事は続く 126
 第十三章 ロチェスターの流れ作業 131
 第十四章 誤診された主婦 145
 第十五章 量を増やせ――シカゴ 157
 第十六章 最後の三本――戦後のバークレー 161

第二部 核のユートピア
 第十七章 十字路にて 181
 第十八章 来る人 去る人 197
 第十九章 原子力委員会(AEC)の隠蔽工作 210
 第二〇章 嘘をつけるほどの愛国者――シールズ・ウォーレン 219
 第二一章 金の亡者と神様と 232
 第二二章 ナシュヴィルの妊婦たち 247
 第二三章 ファーノルド校の少年たち 259
索引

目次(下巻)

第三部 核実験のモルモット
 第二四章 スターリンの果たし状 
 第二五章 兵士のモルモット第一号 13
 第二六章 放射能の粒 19
 第二七章 焦土の演習 26
 第二八章 モルモットになりたい…… 36
 第二九章 キノコ曇の決死隊 39
 第三〇章 志願将校 53
 第三一章 逆さキノコ曇 58
 第三二章 死体泥棒は愛国者 67

第四部 合衆国版・ナチ収容所
 第三三章 「マウスかヒトか?」 87
 第三四章 ヒューストンの「クリップ」軍医 101
 第三五章 核の戦場・シンシナチ 109
 第三六章 オークリッジの照射室 125
 第三七章 囚われのボランティア 135
 第三八章 よみがえるプルトニウム注射 159
 第三九章 「小説よりも悲しい……」 182

第五部 清 算
 第四〇章 「事実を言おう」 199
 第四一章 暴露と痛み 215
 第四二章 人体実験調査委員会――一九九四年 229
 第四三章 涙の証言 234
 第四四章 本を開いてすぐ閉じる 241
 第四五章 大統領の謝罪 251
 第四六章 「もう二度とは……」――一九九六年末 253
 第四七章 ごまかしと現ナマ 257
エピローグ 263
謝辞 273
訳者あとがき 277
索引 
略年表 

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