フクロウ 題字:書評


日本航空事故処理担当

山本 善明 著
講談社,+α新書,238p,ISBN:4-06-272064-7,2001 (\880)
日本航空で「航空事故処理担当」との異名を持った著者による,自伝的な航空事故の報告と安全対策への提言.「提言」はそう大したモノではないが,「自伝」の方は,当時の事故の生々しさを伝えているという点で,よく書けたルポルタージュになっている.
01 Apr. 2001

 本書は1999年に発生した全日空ハイジャック事件のルポから始まる.
 当時の報道が伝えたように,犯人は精神病に近い状態であった.航空マニアである彼は,羽田空港の警備上の欠陥を書面にし,運輸省,日本航空ビルデング(羽田空港を所有),航空会社,警察,新聞社に送り付けていた.そして自分を認めてもらいたいがゆえに,その危険性を「実演」してみせたのだ.
 欠陥を指摘された関係各社が適切な処置を取っていれば,事件は避けられた.著者は『ターミナルビルの警備上の欠陥は、それを利用する「善意」および「悪意」の全ての人々に関わる問題である』とし,安全確保のためには万全を期す義務がある,とまとめている.
 航空関係者は,手荷物受け取り場から逆流するような悪意の乗客にも,正しく対処しなくてはならないのだ.

 1982年の羽田沖逆噴射事故(乗員乗客24名死亡)でも,その直接原因である機長は精神分裂病状態であった.しかも機長昇格前の1977年頃からすでに,はっきり分裂病とわかる兆候が認められていた.
 なぜ精神病を患っている人間が,その後5年間も職に留まり,さらには機長にまでなれたのだろうか?
 著者は章の最後で「企業経営での人間への思いやり」と題をつけ,自己の利益のみの追求,無関心の積み重ねが,多くのチェック・ポイントをすり抜け,彼を機長にし,惨事を招いた,としている.

 だがこの著者のまとめは,単にヌルイどころか,1999年のハイジャック事件のまとめと比べて,明らかにオカシイ.

 著者の主張では,「悪意」の乗客はいるかもしれないが「悪意」の職員はいない,といっているに等しい.怠惰も一種の悪意だ.そして本書が示すように,職員も人間である以上,精神を病むことは十分にある.だからどちらにも「悪意」を持った人間が入り込みうる.

 奥付けによれば,本書の出版は2001年3月だ.
 仙台の筋弛緩剤混入事件を,安全管理の面から,著者はどう見るのだろうか? やはり「思いやり」などど腑抜けたことを宣うのであろうか.

 体制の内部であろうと外部であろうと関係ない.「安全管理」というのであれば,責任所在の明確化と管理監視機構の徹底が不可欠であろう.

 さすがに元内部の人間だけあって,事故のルポルタージュは,当時の生々しさをよく伝えた,迫力のある読み物になっている.ここで紹介した以外にも,「航空事故処理担当」としての多くの仕事について書かれており,なかなか面白い.
 しかしながら著者が説く安全管理は,非組織的・非体系的であるばかりでなく,本質的に矛盾すらも含んだ,甘く無意味なシロモノだ.

 本書はよく書けたルポルタージュだ.だがそれ以上のものではない.


読了2001.03
硬度□□□
読みやすさ☆☆□
読む価値☆□□
bk1での情報

目次

はじめに
著者在職中の日航機事故一覧
第一章 前代未聞のハイジャック事件
第二章 航空事故処理担当
第三章 事故防止のための安全管理とは
第四章 安全管理の根元にあるもの
第五章 ハインリッヒの法則
第六章 ニアミスの危機管理

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