フクロウ 題字:書評


環境と文明の世界史

―人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ―

石弘之,安田喜憲,湯浅赳男
洋泉社,270p,ISBN:4-89691-536-4,2001 (\720)
人類誕生から現在までにおける文明の栄枯盛衰を,環境変化の視点から切り出した対談集.さらっと読めて面白いが,端々に「朝日」的思想が見え隠れする.珠に傷だ.
15 Sep. 2001

 一般に,先史時代から現在までの歴史の流れというのは、狩猟採集から農耕・牧畜による人口集中,そして人口集中がもたらす技術,政治体制の洗練化という,技術革新を中心した視点で語られる場合が多かった.
 本書はこの視点を変え,人間の環境への介入による環境の変化が,歴史を駆動する力となった点を強調する.なるほどと思わせる話から,トンデモと言いたくなるような話まで,いろいろ出てくる.

 例えば,「環境変動により農耕民と遊牧民の活動域が重なることで,文明が生まれた」という説(pp. 72–73)は,僕がかつて教科書で習ったような,「貧富の差が支配者・被支配者を生んだ」という階級闘争の思考をそのまま焼き直したような説よりは,ずっと説得力がある.装身具や奴隷制度が,本質的には,遊牧民の社会制度に根づいているにもかかわらず,文明の生まれた地域が,当時は穀倉地帯であったことも,前者の説の優位性を補強する.

 反対の,「トンデモ」系の最右翼は,「アマゾンの先住民に味覚がないように,縄文人は味覚がなかった」(p. 62)だろう.「われわれと同じ味覚は存在しない」とは書いてあるが,全体として,「先住民は食文化が貧しいから,味覚を持たない」としか読めない.
 そんなはずはない.日本人がアマゾン先住民の味覚を理解できないように,アマゾン先住民も日本人の味覚を理解できないだけの話であって,要するに,慣れ,感度の問題だろう.アマゾン先住民の方が繊細な味覚を持ち,日本人の方が鈍感な味覚を持つ,と言い換えてもいい.もちろん遺伝で左右されるものでもない.日本人の赤ちゃんがアマゾン流域で育てば,そこにあった味覚を持つ.
 縄文人もまた,アマゾン先住民と同様に,食生活の違いから,僕たちとは異なる味覚を持っていただろう.決して「なかった」わけではない.

 この「トンデモ」を喋っているのが石弘之なのだが,他のパートでも,おかしな発言が多い.例えば,石器の発達が,人類の進化を促した,とか(脳容積の増大は,石器の発達以前に完了している).さらに,反欧米的,アジア優位主義的発言が実に多くて,正直,読んでいて気持ちが悪かった.そう簡単に割り切れるものでもあるまいに.都合のいい所しか見えていない.
 略歴を見てみると,朝日新聞編集委員から東大教授(新領域創成科学)になったらしい.そうか,僕の感じた違和感は,非学者的ないいかげんさと,その「朝日」的な発想・思想にあったんだ,と妙に納得.
 それにしても,東大教授って誰でもなれるんだねぇ.

 ただ,残り二人の話は面白いし,↑に挙げたような例も,「鼻につく」程度にしか気にならないのも事実.全体としては値段の割に情報量が多くてお買い得な本だと思う.また,対談形式なので,あまり頭を使わずに読める.
 寝る前に酒を飲みながらでも読めて,かつ知的好奇心が刺激される本,という意味では,『銃・病原菌・鉄』と同じ良さを持った本だと感じた.


読了 2001.05
硬度 □□□
読みやすさ ☆☆□
読む価値 ☆☆☆
bk1での情報

目次

はじめに(石弘之)
序 今なぜ環境学を学ぶ必要があるのか?
【環境史】 マルクス主義史観に押し潰されてきた環境史研究14
【年代測定】 歴史認識を逆転させた画期的な年代測定法の発見27

第一部 現代型新人の誕生から古代文明の崩壊まで
【現代型新人の誕生】 ネアンデルタール人とマンモスはなぜ滅亡したのか?34
【農耕革命と定住革命】 北アメリカの巨大“氷河湖”の崩壊と農耕の始まり49
【火と文明】 火の使用・保存が人類に自然破壊の手段を与えてしまった58
【古代文明論】 古代“四大文明史観”を覆す長江文明の発見64
【縄文時代と都市文明】 巨大な建築を持った三内丸山遺跡は都市文明か?82
【民族移動と文明】 地球寒冷化と古代文明を滅ぼした二大民族の登場88
【精神革命と宗教・哲学】 気候変動がもたらした釈迦とキリストの出現91

第ニ部 グレコ・ローマ文明の誕生から中世ペストの大流行まで
【水と文明】 たった五〇〇ミリの雨から生まれたグレコ・ローマ文明102
【金属と文明1】 金属汚染と引き換えに手にしたローマ帝国の栄光116
【金属と文明2】 ゲルマンの森を農耕・放牧地に変えた修道院の破壊行為126
【心と文明】 ローマ帝国滅亡の原因を作ったキリスト教の拡大133
【奴隷と文明】 イスラム世界へ輸出された白人奴隷の歴史145
【文明の基本型】 世界文明の新分類法=「動物文明」と「植物文明」156
【病気と文明】 中世ペストの大流行は森林破壊と動物殺戮の報い171

第三部 ヨーロッパ世界の拡大から 「欲望全開」 の世紀まで
【植民地と文明】 イスラムの圧力に押し出された「大航海時代」の幕開け182
【遊牧民と文明】 ヨーロッパ人の植民地経営法は遊牧民の発想191
【新大陸と文明】 ウイルスと自然破壊で手に入れた新大陸の世界196
【肉と文明】 肉好きの民族が行き着いたアメリカ型文明206
【水と文明】 亜熱帯モンスーン地域の「コメと魚の文明」が人類を救う213
【化石燃料と文明】 虫まで真っ黒になった産業革命の功罪222
【産業革命と文明】 なぜアジアで産業革命が起こらなかったのか?237
【戦争と文明】 殺人兵器=毒ガスが人口爆発を誘発する不思議242
【欲望と文明】 “人類の欲望”が地球環境に敗北する時代がやってきた246

むすび 環境史から人類の未来を問う
【環境革命と文明】 人類の破局を食い止める「環境革命」は可能か?102

あとがき(安田喜憲)267
あとがき(湯浅赳男)269
人類史の革命と気候変動図

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