カソリックもプロテスタントも経典としている旧約,新約聖書.その中のいろいろなエピソードは,僕みたいな無宗教な人間でも結構知ってたりする.でもその聖書を,最初から最後まで通してキッチリ読んだことのある人は,実はキリスト教徒でもほとんどいないらしい.ふ〜ん,そんなもんかねぇ.
で,本書の著者であるKen Smithは,そのキッチリをやってしまった.するとどうだろう,聖書の中で繰り広げられる世界は,“あんぐり。ページ一面が、発狂した幻覚にねじくれた道徳感、どん欲、血みどろ欲情まみれ。”だったのだ.
もちろん,いいことも書いてある.でも,「トンデモ」な記述もかなりある.
ってことで本書は,二冊の聖書を頭からちゃんと読んで解説したガイドブックだ.前後の文脈から「そりゃおかしいだろ」と突っ込んでみたり.あまりに残虐だったり,理不尽,セクハラな個所を指摘する.さらに,聖書物語として世間一般で常識となっている内容が,実は聖書に全く書いてなかったり,前後の文脈を無視した我田引水だったりするところも,きちんと押さえてある.
たとえば,こんな感じ:
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聖書は、アダムとイブが食べた禁断の果実がどんなものだったのかは、全く説明していない。バナナだったかもしれないよ。
――創世記3:1−6(本文p35)
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サウル王の娘への愛を証明するために、ダビデはペリシテ人100人を殺してその包皮を王に捧げている。
――サムエル前書18:27(本文p69)
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神さまは、荒野の選民たちの人生を惨めにしてやるために、わざととんでもない法や儀式をあてがったのを認めている。
――エゼキエル書20:25−26(本文pp.108−109)
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「わたしのもとにきながら、自分の父や母、妻や子供たち、兄弟姉妹を憎まないものは、わたしの弟子にはなれない」
――ルカ伝14:26(本文p152)
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「女は教会では沈黙すべきである。なぜなら女はしゃべることを許されておらず、従属すべきだからだ。これは律法も言っていることである。もし女が何かを知りたいと思ったなら、家で夫にきくがよい」
――コリント人への前の書14:34−35(本文pp.203−204)
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んなこと書いてあるわけなかろう,と思って新約聖書をチェックしてみると(旧約は持ってない),その通りにちゃんと書いてある.ちょっと信じられなかった.
Kenのガイドに従うと,旧約聖書は理不尽な神さまの傍若無人な世界.福音書で描かれるイエスは個人主義的で独善的なコミュニスト.使徒行伝,使徒書簡はキリスト教を世界宗教にするために,イエスの極端な教えを中和し捻じ曲げている…ように読める.
世界一出版されているキリスト教の経典がこんな本だったとは…なぜ都合のいいように書き換えなかったのか不思議.
旧約・新約聖書を片手に読んでみることをお勧めします.山形浩生お得意の,口語体での訳がぴったりはまって,読みやすく面白い.
…ってか,この本を読んだら絶対に聖書が読みたくなるぞ.皮肉ではなく,キリスト教普及に一役買える名著だ.
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