フクロウ 題字:書評

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不安型ナショナリズムの時代

―日韓中のネット世代が憎みあう本当の理由―

高原基彰 著
洋泉社,255p,ISBN:4-86248-019-5,1006 (\780).
日中韓の経済発展と雇用の変化だけでよかった
05 May. 2006

 おぉ、ついに自分より若い人が新書を書く! こういう時に人は歳をとったと実感する。それはさておき、本書はご時世に合わせた売らんかなのタイトルで、息の短い商品になると思う。興味深い分析をしているがゆえに残念だ。

 日中韓の経済・雇用の変化の歴史をまとめることで、それに伴う「雇用感」の変化や「社会のムード」を上手に表現できている。特に雇用の側面から見た世代間のギャップは新鮮で示唆に富む。特にバブル期以降、日本の産業界が若年世代をフリーターというバッファーとして位置付けてきた話や、中国の文革後の世代間の職業意識のずれなど興味深い。
 というか社会分析に、人がその殆どの活動時間を費やす仕事や影響する景気や仕事をするための雇用の視座が抜けていたことの方が問題なのかもしれない…

 私見だが人員のボリュームだけを見るとかつての日本の(a)組織の幹部候補、(b)その他正社員、(c)日雇い・パートが現在は、(a)組織の幹部候補、(b)その他の正社員、(c)派遣・パート・アルバイトに移っただけのような気がする。要するに(b)の一部が(c)に移り、正規分布型がピラミッド型に変わっている。
 流動性について考えると(a)については現在でも流動性は期待されていないし、(c)についてはもともと流動性が高い。(b)の部分の流動性が高まった後の雇用像がないことが不安の要因とするなら、かつても「就社」のイメージがあったかどうか微妙で、やはり不安であったと思う。周りを見ても私の親の世代で(b)の階層の人は結構職を変えている。
 違いがあるとするなら「今日より明日がいい日」と思えたかどうかであり、今後それが持てないのなら実態を積極的に伝えていくことでイメージを明確化するしかないだろう、それがどれだけ夢がなかろうとも。

 ここまでは面白いのだが、雇用感の変化をメディア・ネットでのナショナリズムと結びつけるのはかなり無理があると思う。
 そもそもメディア・ネットでのその手の言説など、社会全体の情報チャネルから見るとかなり小さいのだから、中間層の不安感がナショナリズムに直結すると考えているなら浅薄に過ぎる。大半の中間層の不安感は他の何かで代償されているし、そもそもネットの言説が中間層が中心になっているかどうかも怪しい。このあたり、本書で言及しているような雇用に直結した欧州下層のナショナリズムと比べて説得力が非常に弱い。
 またこのナショナリズムの話はネット→メディアの因果関係の方が腑に落ちる。メディア側がネットの「嫌韓・嫌中」を題材として取り上げている方が多いのでは? その意味でメディアの言説にネットが付き合っているという分析にも違和感がある。

 私見だがネットの「嫌韓・嫌中」は、メディアの情報フィルタリングに対する異議申し立てと理解した方がシンプルな説明だと思う。
 情報のギャップ(ワイドショー的な噂の真相)の大きさが、面白さ・エネルギーとなってその手のトピックが相対的に増えているだけでは? もちろんそのギャップが不快な面を顕にしているからこそ到達力が高くなっていると思う。
 だからそのギャップがなくなれば、ネットでのナショナリズムはなくなると思う。ネタ的に飽きられたから取り上げられなくなるのが目に浮かぶ。本書の主張が正しければ決してそうはならないだろう。

 無意味なナショナリズムを話す暇があったら自分自身の雇用問題を考えようよ、というのが本書のメッセージの一つである。しかし有り体に言ってしまえば、政策決定に深く関与できる層以外はどれだけ考えてもナショナリズムと同程度に意味がない。その意味でネットでの言説に言及している本書は的を外していると思う。

 また政策的なナショナリズムと、個人のナショナリズムを混交している。前者は内部が一枚岩(=「玉突きモデル」)ではないといったところで意味がない。外交として政府が表出したコメント・行為について、その内部を推測して勝手に解釈してしまうのは危険である。また後者の話は「だからどうした?」としか言いようがない、外部で対応すべきは前者のみであり、個人の話はそれこそ個人の問題であって一般化する必要もない。

 政治的な言説が難しいなぁと実感できるのは、本書が出た直後に竹島近海の測量が問題となり韓国政府・政治組織が「玉突きモデル」の反応を国内外に示したことである。いかに内部に多様性があろうとも、外部に表出されるメッセージがアレでは「詳しく知るだけ無駄」だろう。

 本書は三国の経済発展と雇用の変化だけでよかった。大半がそれについてかかれているのだから、ナショナリズムを組み込むのは商業的な側面でのみ意味があり、かえって本書の質を下げていると思う。


読了 2006.05
硬度 □□□
読みやすさ ☆☆□
読む価値 ☆☆□
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