フクロウ 題字:書評


遺伝子万能神話をぶっとばせ

―科学者・医者・雇用主・保険会社・教育者および警察や検察は、遺伝がらみの情報をどのように生産し、操作しているか―

EXPLODING THE GENE MYTH

— How Genetic Information is Produced and manipulated by Scientists, Physicians, Employers, Insurance Companies, Educators, and Law Enforcers —

Ruth Hubbard, Elija Wald 著 佐藤雅彦 訳
東京書籍,505p,ISBN:4-487-79550-8,2000 (\3500).
副題なげ〜〜よ,ってのはどうでもいいとして,最高に面白く,絶対に読むべき本.
03 Mar. 2001

 現在,あらゆる疾患や先天性障碍,さらには性格や嗜好性までをも,その原因を「遺伝子」に求める風潮が強い.これに真っ向から異を唱えているのが本書だ.
 遺伝子治療や遺伝子診断の現状でのお粗末さ.華々しい報道とのギャップ.生み出されるいわれなき差別の危険性を「これでもか」と提示する.そして「福利厚生に必要なのは怪しげなバイオテクノロジーなどではなく,公衆衛生だ」とバッサリ切り捨てる.

 実際,遺伝子治療の対象となるのは,ごく少数の遺伝性疾患に限定される.ヒトゲノム計画の目的の一つである「医療貢献」なんてのは,予算獲得のためのお題目にすぎない.もうちょっと優しい言い方をすれば,投入された予算のほとんどは,遺伝子治療とは関係ない.

 研究者達の本当の目的は,“遺伝子ビジネスで一旗挙げること”だ.ベンチャービジネスブームに乗って彼らは,慢性疾患遺伝子だとか,はては精神病遺伝子なんかを見つけてきては,検査キットとして売り出す.
 ハッキリ言ってしまえば,これらの検査で「クロ」と判定されても,個々人が罹患するかどうかは別問題.まず判別ミスがかなり大きい.さらにその手の疾患は,ヒトの体・精神のバランスが崩れることで発病するのだから,幾つかの要素を抜き出して「標準から外れている」といっても無意味.全体として調和が取れていれば疾患にはならないのだ.
 反対にたとえ検査が「シロ」であっても,生活習慣や社会環境によってバランスが崩れれば,容易に慢性・精神疾患は起こる.
 要するに,検査そのものが無意味なのだ.

 「それでも自分に発病傾向があるかを知ることは重要」...確かにそうだ.それを“自分一人だけが知る”のであれば.

 ここで著者が警告して(そして実際に起こって)いるのは,遺伝検査によって引き起こされる新しい差別だ.
 もしあなたが経営者だとして,検査キットによって“心臓病に罹りやすい遺伝子”を持っていると判定された就職希望者と,そうでない希望者がいたら,どちらを雇うだろうか? 学校入試の合否基準に採用されたら?
 その手の“疾患遺伝子”が眉唾であることを思い出してほしい.酷い話だ.

 タイトル通り,「遺伝子万能」とマスメディアの情報を鵜呑みにして,思考を停止してしまっては,一方的に騙される.僕たちは,科学を監視する視座を持たなくてはいけない.

 読み始めはちょっと文章がきついかなぁ,と感じたけど,読み進めるうちに,そう書きたくなる気持ちがよくわかった.
 嵩は張るが特に難しくもなく,すらすら読めて面白い.読むべき本,でしょう.


読了 2001.09
硬度 ☆☆□
読みやすさ ☆☆☆
読む価値 ☆☆☆
bk1での情報

目次

序文――私たちが本書を執筆した切実な理由
一九九九年度版への序文15
第1章私たちにとって遺伝子とは何か?35
第2章遺伝的レッテル貼りと旧式の優生学61
第3章新型の優生学――遺伝子検査、“病的遺伝子”保有者のふるい分け検知、胎児殺しの選択81
第4章遺伝学のかんたんなおさらい119
第5章「遺伝子」概念は社会に誤解と偏見をもたらしている169
第6章各種慢性病の「遺伝的素質」という迷信201
第7章各種行動の「遺伝的素質」という迷信247
第8章私たちの「遺伝子」を操作しようとする目論見281
第9章遺伝子の商品化301
第10章遺伝子差別――学校・職場・保険加入の現場にあらわれた新たな差別323
第11章DNA照合による個人識別システムが、プライバシーと市民的自由に及ぼす影響361
第12章結びに代えて……391
一九九九年度版のための後記403
付録:ミトコンドリアDNAについての特別講義445
訳者あとがき469
注記453
用語解説485

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