フクロウ 題字:書評


コミュニティ臨床心理学

―共同性の生涯発達―

岩堂 美智子,松島 恭子(編)
創元社,248p,ISBN:4-422-11261-9,2001 (\2500)
コミュニティの視点から,発達・臨床心理学を語る.ヒトの中で成長し,老いていくことの大切さがひしと伝わる良書.だがジェンダー論の章だけはいただけない.コミュニティの視座から書かれておらず,さらにミードが捏造したニューギニアの与太話を拡大再生産している.【19 May 2000

 コミュニティ心理学とは,伝統的な臨床心理学におけるパーソナリティに着目した分析手法とは異なり,社会・環境要因に注目する.このコミュニティ・アプローチを用いた臨床心理が,表題であるコミュニティ臨床心理学だ.
 近代的な地域・血族コミュニティは,現代の都市部ではほぼ崩壊している.本書が目指しているのは,崩壊した古いコミュニティの再生ではなく,現在の社会状況に合わせた新たなコミュニティの創出である.

 人がヒトとして生まれてくるのは自明だけど,放っておけば人になるわけではない.多くの事を学び,知的・肉体的・心理的に発達することで人となる.さらに,人と接する状況でだけ,ヒトは人でいられるのだと思う.
 僕は,コミュニケーション能力の向上と,社会の深化・階層化・複雑化の循環的発展が,サルからヒトへの進化を促したと考えている.だからヒトに対する進化の淘汰圧は,単独生活者としての資質ではなく,社会を築き他者と協調する資質にかかったと,推測している.

 このような視点から読むと,本書には興味深い研究事例が多い.

 保育園児において,3歳未満での入所児は,3歳以上での入所児を比較して,情緒の安定性と社会的安定性が高く,自立性と自制力が低いそうだ(2章).幼年期から同世代の人間と接することにより,自己アピールと協調性のバランスが取れている,と読み取ることもできる.
 また「幼児は皆、他児に関心を持ち、関わることを望んでいる。動機に違いはあれ、他児を援助することに興味を抱いている」とまとめている(p76).ヒトはこのような資質を持っている,と考えることもできる.おもしろい.

 四章における,障碍児の親子関係が障碍児に与える影響と,コミュニティ・アプローチの重要性は,僕にとっては衝撃的だった.親の過剰な介護が子供の自我発達を妨げている,というのだ.単に配膳や片づけができない,といったレベルではない.所有意識や自我表現,つまり自他の分化という心理面での発達が,遅れてしまうのだ.
 一般に障碍児は孤独になりがちで,いきおい,親の過剰な介助を招きやすい.しかしながら本書が指摘するように,幼年期から健常児と共同生活をすれば,2章で述べた他者に対する援助行動を引き出すこともでき,障碍児の心理的発達にも貢献できるのだ.やはり,『「一人遊びしているとき」がもっともいきいきしている』(p124)という状態は,どう考えてもおかしい.

 全体として良書ではあるが,5章のジェンダー論は酷い.他がよいだけに,余計に目立ってしまう.
 とりあえず,「文化人類学者のミード(1935)は、ニューギニアには男女の役割が、我々の考えているのとは全く逆といっていいような部族があることを報告している」(p155)という一文だけでも,改訂版では削除した方がいい.ミードの文章自身が,虚偽と呼べるものであることが明らかとなっている(Freeman 1984, 1999).
 まぁ,はっきり言って,5章はコミュニティ・アプローチの点から書かれていないし,別段文章が優れているわけでもない.他の章には全て編者が連名となっているのに,この章だけはどちらも入っていない事も考慮すると,改訂時には章全体の削除が,適切だと思う.

 繰り返しになるけど,5章を除いて良書です.特に育児におけるコミュニティ・アプローチの重要さが切々と伝わってくる.子を産む女性にぜひ読んでもらいたい.母(父)と子だけで長時間過ごす核家族的育児環境は,親にもそして子供にも悪影響が大きい.
 ヒトは人の中で,人になるのです.


Freeman, D. (1984) Margaret Mead and the Heretics. Penguin, London.
Freeman, D. (1999) The Fateful Hoaxing of Margaret Mead. Westview Press, Boulder, Colorado.

読了 2001.04
硬度 ☆☆☆
読みやすさ ☆☆□
読む価値 ☆☆☆
bk1での情報

目次

はじめに i
第1章なぜ今<コミュニティ・アプローチなのか> 
第2章人間発達に学ぶ 20
第3章子育ち・子育てとコミュニティ・アプローチ 85
第4章親子関係とコミュニティ・アプローチ 120
第5章ジェンダー形成とコミュニティ・アプローチ 154
第6章中高年の発達とコミュニティ・アプローチ 174
第7章生涯発達と心の健康 212
あとがき 242

boss@unitarou.org